昂はその頭を鷲掴みにして、壁に向かって思いっきりぶん投げた。
ヴァイツェン≠フ白い戦闘装備を身にまとった男は、まるで玩具のように宙をかっ飛び、勢いよく壁に激突する。悲鳴はあがらない。掴まれたときの勢いが激し過ぎたため、身体が宙に浮いた時点で気を失っていた。
「次ぃっ!」
雄々しく叫び、続いて躍りかかってくる兵士に拳を繰り出す。全身の筋肉をバネのごとくしならせて打ち出された一撃は、名も無き兵士の顔に容赦なく炸裂した。交通事故レベルの衝撃を顔面で受けた兵士は、ボウリングのピンのように吹っ飛ぶ。床に転がる頃には意識も木っ端みじんになっていた。
これで折り返し地点。三十人ほどいた警備部隊の半数が、昂一人に地に這わされるという結果が出た。残る隊員たちは昂を取り囲んでいるものの、たった今その目に焼き付けられた光景に全身を凍り付かせている。
たった一人。十代後半と思しき、たった一人の少年に十五人も仲間達が倒された。しかも素手で。なおかつ少年は無傷のまま。驚愕以上に、戦慄が隊員たちを支配していた。
眼前に立つ赤毛の少年には銃が通用しないのだ。銃口を向けた途端、彼はそれこそ跳弾のごとく床を跳ね、壁を蹴り、天井を飛び、一瞬にして背後へ回る。そして信じがたい怪力の一撃を兵士達に叩き込むのだ。
世界で唯一あの『超大国パンゲルニア』に牙を剥くヴァイツェンの精鋭部隊が、今、たった一人の少年に全滅させられようとしていた。
黒地の所々に深紅をあしらった制服らしき格好をしている少年は、自分を取り囲む白い戦闘服の群れをぐるりと睥睨すると、はっ、と笑う。
「おいおいヴァイツェンの兵隊ってのはこんなもんか? 科学軍事国家って呼ばれてるわりには歯ごたえなさ過ぎだぞ。気合い入れねえとマジでこんなガキに負けっぞテメエら?」
右手を顔の前まで上げて、くいくい、と手招きする。
そんなことで頭に血を上らせるような者は精鋭部隊にはいない。あからさまな挑発を無視して、隊員たちは目配せし合う。ほんの一瞬の、無言のコミュニケーション。だが彼らにはそれだけで十分だった。刹那で作戦を選び即座に意志を統一し瞬時に行動へ移す。
三人が昂に銃口を向け、四人が天井に銃口を向け、残る者がその場から離脱しフォローに回った。誰もが防弾装備だ、同士討ちになることはない、好きに撃てる。一糸乱れぬチームワークが発動した瞬間、昂の体が弾丸のように天井へ跳ぶ。瞬きするほどの間だけをおいて銃声が三つ重なった。さらに一瞬の間を置いて四丁の銃が天井に座り込んだ昂へ発砲。
遅い。
昂の体は残像を残すほどの速度で弾け飛び、隊員の一人の背後へ着地している。そこへフォロー役の七人が一斉に銃口を向け、
突然、人体のひしゃげる音が連続して響いた。
「!」
文字にならない叫び声があがった。あげたのは昂の目の前で体を反らした隊員である。電光石火だった。昂の拳がガトリング砲のごとく隊員の背中を乱打し、爆裂に近い衝撃を与えたのだ。
防弾装備である。それは同時に対衝撃素材であつらえた防具であることを意味する。だがそれをもってすら、これまでに十五人の隊員が一撃で気絶させられている。その殴打を畳み掛けた威力は、隊員たちの想像を絶した。
落雷のごとき出来事に、体中の骨を砕かれた者を除く全員の心臓が、悪魔に鷲掴みにされた。
圧倒的な力の差を見せつけられた──誰もがそう感じていた。
重い音を立てて不幸な隊員の体が崩れ落ちると同時、残った者は総じて一つの結論を出した。目配せを交わし意志を統一して瞬時に行動へ移す。
退却である。
三人が発砲して昂を牽制するのを皮切りに残った十一人が走り出す。誰を優先するでもなく、昂の近くにいた三人が牽制に回り、残りを逃がしたのだ。さすがによく訓練されている、と昂は胸の中で感心する。が、
「だからって逃げるこたぁねえだろが! 諦めはやすぎんぞコラァッ!」
その声に反応したわけではないだろう。だが、そうとしか思えないタイミングで、退却を開始した隊員たちの足が止まった。そして糸の切れた操り人形のごとく次々と倒れていく。
「……あ?」
予想外の出来事に昂が訝しげな声を漏らした。すると、それを待っていたかのように、少年に銃口を向けていた三人の隊員もが一斉に床に転がった。一人に視線を向けると、その額で銀色の何かが光っていた。よく見るとそれはとても小さな針で、表情から察するに、眠っているのだと思われる。
それを見てすぐに、昂は何が起きたのかを悟った。
通路の奥に視線を送ると、やはりそこには見慣れた人物が一人。昂より頭半分は高い背丈を持つ、背中まで届く黒髪をポニーテイルに結った少年。彼が天使養成機関スウェーデンボルグにおいて屈指の美貌と女癖の持ち主であることを、昂は知っている。奴の持つ金色の瞳は邪眼の親戚に違いない、とはここにはいないメンバー・麟の言葉だ。魔神の親戚扱いされた少年は、どこで仕入れてきたのか右手に麻酔銃を握っていた。警備隊員たちを眠らせたのは間違いなく彼の仕業だった。昂は眉間に皺を寄せて、不機嫌な声を投げつける。
「純。テメエな、荷物取り戻すのに一体何分かかってんだ。おかげでこっちは十人以上も素手でぶっ倒し続ける羽目になったんだぞ」
そう言う昂はまったくの無傷であり、説得力が無いことは当人にも自覚がある。それを知ってか、純と呼ばれた少年はにっこりと微笑んだ。それはまさしく翼を隠した天使の微笑で、この柔らかな微笑みが老若問わず多くの女性を虜にするのだ。
「まあまあ、そう怒らないでください。ただでさえ短そうな寿命がさらに縮んでしまったら、きっと機関長が踊って喜んでくれますよ?」
「そいつはそいつでかなりムカつくな。つうかテメエ俺をなだめたいのか怒らせたいのかどっちだコラ?」
「それはベッドの中で女性にだけ打ち明ける秘密ということで。はい、昂君のお荷物ですよ」
右手の麻酔銃を適当に放り捨て、左手に持っていた物を昂に差し出す純。それは二枚のメタルプレート。一枚は赤銀色、もう一枚は青銀色に照明を照り返している。幅四センチ、長さ十二センチ、厚さ三ミリのその表面にはある特定の紋様が刻まれていた。ちょうど中央が円形にくぼみ、それを中心として全体に線が走っている。それはどこか、翼を生やしたカメレオンを抽象的に表現していた。
昂は赤銀色のプレートを受け取り、右手に握り込みながら純に尋ねる。
「んで、結局どっちだったんだ?」
「どうやらこちらはハズレだったようです。というより女性が一人もいません。大ハズレですね」
ため息混じりに言うその顔は本当に残念そうだった。昂はそんな純に、遠慮なく呆れの表情を見せる。同じようにため息混じりで、
「じゃあ、なんか手がかりになるような情報とかはなかったのかよ?」
「ありませんでした。どうやら中将クラスにも知らされていないようですね、この件は」
その答えに昂は舌打ちを一つ。
「んじゃ、麟と浮の方で情報つかめてりゃいいんだけどな」
「そうですね。ちなみにここの主人もきっちり殺っておきましたので。どうも僕たちを何かに利用しようとしていたらしく、本部に連絡がいった形跡はなかったんですけどね」
「おう。しっかし、わざと騒いでとっ捕まってまで探ったってのに、収穫ねえってのは、こう……なんつうかムカつくよな。テメエせめて俺にトドメささせろよ」
純は笑顔に明るい声で言う。
「いやぁ、なんだかあの人、ものすごく腹の立つ顔をしていたもので」
「あー、それなら仕方ねぇか。にしてもこいつら、中将の護衛にしちゃあ弱かったよなぁ」
昂はあっさり納得して歩き出した。倒れている警備隊員をよけ、屋敷の出入り口へ向かう。純もその背を追って歩き出す。
「そうですね。一部の人はかわいそうなんで命はとらないでおきましたけど。あ、でも昂君? 殺らないといけない時はちゃんと殺らないとダメですよ?」
「わかってらあ」
純の追う昂の背中。そこには深紅色の刺繍で描かれた紋章がある。切っ先を真下へ向けた両刃剣の柄から、大きな猛禽の翼が生えている紋様である。それは二人の国では『天裁の剣紋』と呼ばれるもので、その形は龍日≠フ先兵たる『天使』の象徴だ。また、深紅色は『天使養成機関スウェーデンボルグ』出身であることを意味している。
この場合、『天使』とは翼持つ使徒を意味しない。龍日の最高権力者──神を自称する神威天照帝の御使いを指す。
『天裁の剣紋』の形は、天帝の剣を表している。切っ先が下に向いているのはそのためだ。天に切っ先を向けることは、天帝に刃を向けるという意味になる。そのため、かつては逆賊が切っ先を上に向けた髑髏の柄頭を持つ剣の印≠ナ象徴された時代もあった。また、『天裁の剣紋』の柄部分を飾る猛禽の翼は、天帝の権力を象徴している。絶対性・不死性・超越的・究極的など様々な意味を内包しているが、その全てが、天帝が神であることを示しているのだ。
その天帝の加護を受けた剣。それがすなわち天帝の尖兵──『天使』なのである。
そんな『天裁の剣紋』を背負った二人の少年、昂と純は龍日の天使である。ただし、最後に『見習い』という文字が付記されるが。
──龍日と安全保障条約を結んでいるヴァイツェンに拉致されたと思われる二三宗家の令嬢の、生存確認および救出──
それが二人と、ここにはいないもう二人の天使見習いに与えられた任務だった。
二三宗家の一門である巫桜院家の一人娘、名前は蜜姫。代々各宗家の長女の名には『姫』が、長男には『龍』が与えられる。現当主の龍佐は成人してすぐ妻をめとったが、長く子供ができず、蜜姫は龍佐が齢五六にして初めて授かった嫡子だった。そのためか、龍佐の蜜姫への愛情の注ぎようは二三宗家の間でも有名で、誰もが「龍佐翁にとって、蜜姫嬢は本当に蜜のように甘いものなのだろう」と微笑ましげに語るという。
その蜜姫嬢がある日突然、行方不明になった。その事実を知った龍佐翁は衝撃のあまり病に臥し、遅れてそれを知った天帝が天使の封印を解除した。通常であれば天使の封印は緊急事態、あるいは非常事態でなければ解除されないもの──否、解除されてはいけないものである。しかし、かねてより忠臣としての信が厚かった龍佐翁のため、天帝は例外的に天使の封印を解除した。命を受けた天使達は即刻捜索を開始。情報が集められ、整理された結果、蜜姫嬢がヴァイツェンに拉致された可能性が浮上する。理由は不明だが、蜜姫嬢が白い服の男数人に囲まれているのを見た、という目撃情報があったのだ。確認が求められるのは当然のことだった。
だがここで、天帝の例外的な命令のため、救出に派遣される天使の人選にも例外が生じた。安全保障条約を締結しているヴァイツェンに公然と天使を送り出すことは出来なかったのだ。かまわぬ、と天帝は言ったが、二三宗家中十八宗家に反対されては、神を自称する存在も強硬に我を押し通すわけにはいかなかった。
そういった複雑な事情による選考の結果、五つある天使養成機関の一つ『スウェーデンボルグ』から四人の天使見習いが選出された。四人の名を、昂、純、麟、浮という。天使または天使見習いに名字はない。また名前すら本名ではない。全ては符号であり、天裁の刃たる天使にはそれだけで十分なのだ。それ以上は必要ない。
他の天使養成機関である三善趣、ラウム、ピタゴラス、ペリクリーズから派遣員がいないのは、それはそれで特別な理由がある。平たく言えば機関長同士の権力抗争の一つであると、今は記しておく。わかる者にはわかる事情なのだから。
事実、昂、純、麟、浮の四人は天使見習いどころか、スウェーデンボルグでは有名な駄天使四人組であった。よって、見習いの中から優秀な者が派遣されてないあたり、そこにはある種の『焦臭さ』がまとわりついているのは当然というより、必然だった。
そんな焦臭さに気づいているのかいないのか、下手を打てば外交問題まで発展する任務に派遣された駄天使は、軽い口調で口を開いた。
「美人なんでしょうね」
「あ? 誰が?」
「巫桜院蜜姫嬢ですよ。あの二三宗家でも頑固で有名な巫桜院のご老体が、目に入れても痛くないほど可愛がっているそうです。知っていますか?」
「ああ、聞いたことはあるけどな。だけどな、資料にゃ顔写真はなかっただろ。不細工かもしんねえぞ?」
「まあ五六歳になってからのお子さんらしいですからね。可愛くて可愛くてしかたなくて可愛がるのもわかります。ですがこういった場合、さらわれた姫君というのは美人というのが基本なんですよ。定番ではないですか」
「知るか」
無愛想にそう答えてから、昂はさっきから意識の表層で聞き流していた音に気付いた。毛足の長い絨毯を歩く音にすら掻き消されてしまうような、それほど小さな音。木の板に軽く針を刺すような、そんな音だった。聞き耳を立ててみると、音は背後から聞こえていた。
振り向くと、純が拳銃を撃っていた。廊下に点々と転がっているヴァイツェンの兵士たちに向けて。どれも昂が手加減して気絶させた者ばかりだった。
昂は足を止め、眉根を寄せた。冷たい視線を純の顔に突き刺し、睨みつける。
「……何やってんだテメエ」
「ああ、バレてしまいましたか。静かにやっていたつもりだったんですけど」
「だから、何やってんだテメエ」
低い獰猛な声に恫喝されても、純の金色の瞳は柔和さを失わない。くすり、と笑って、
「簡単に言えばフォローです。機関長も言っていたでしょう? 僕たち見習いはお互いを補い合うこと、と。昂君はエンジンがかかるまでが甘いので、その間は僕がフォローとして関係者は皆殺しにしないといけません」
そら恐ろしいことを優しげに言う。そのギャップに昂はやはり呆れが宙返りをする。
「……テメエな、」
と昂が溜息混じりに注意しようとしたところ、
「事態の本質を理解しましょう。もしもの場合は、僕たちを送り出した片桐さんが死んじゃうかもしれないんですよ?」
「……!」
口調こそ丁寧だったが、白刃のごとき舌鋒を純から突きつけられた。昂は思わず口をつぐんでしまう。見ると、それでも純は微笑みを絶やしていなかった。
純の言っていることならば昂も理解している。しかしだからといって、即座に命を奪うことに行動が繋がるほど、容赦という言葉と無縁ではなかった。そして、自らの行いが不手際であり、その後始末を同僚が黙ってしていたことに対する嫌悪感もそう簡単には拭えない。
短い葛藤の末、昂は舌打ちを一つ。
「癖だ。次からちゃんとすっから余計なことすんじゃねえ」
こう言い置いて、また歩き出した。
「はい」
と嬉しそうに頷き、純はまた引き金を引いた。
「相変わらず容赦のないことだ」
純の話を聞いて、ミラーシェードで顔を隠した白皙の少年は静かにそう述べた。癖のある豪奢な金髪がまるで獅子のたてがみのように少年の顔の三方を飾っている。ミラーシェードをはずせば眉目は秀麗で、印象的な蒼穹色の瞳と合わせれば、その美貌は純と比べても遜色はない。ただ唯一の欠点さえ除けば。
小用から戻ってきた昂が少年に声をかける。
「よう麟。相変わらず小せぇな」
そう、小さいのである。詳しく言えば、背が低いのである。もっとはっきり言おう。身長は一五〇センチ、体重は四三キロ。その美貌ゆえか、少女と間違われることも希ではない。せっかくのミラーシェードも、ここまでの童顔にかかると逆に可愛いものだ。むしろしょっちゅう少女と間違われている。
「黙れ。好きで小さいわけではない。思うに、私にはまだ成長期が来ていないだけだ」
しかしそれでも本人は男らしくありたいらしく、同年代の少年たちより少女たちと比べた方が良いほど黄色い声だというのに、このような厳めしい口調でしゃべるのだ。
当然、それは周囲の失笑の対象だった。今も昂はからかい半分にニヤニヤと、微笑ましく思った純は可笑しそうにクスクスと、それぞれの表情で笑っている。自分の固い喋り方が容姿に似合わず、逆に周囲に『可愛らしい』と思われていることを知らないのは当人ばかりだった。余談だが人気だけで言えば、スウェーデンボルグ内に限るが、彼は純を凌駕している。ほぼマスコットのようなものだが。
名は麟。昂や純と同じく、黒地の所々に深紅色をあしらったスウェーデンボルグの制服に身を包み、その上に白衣を着込んでいる。ヴァイツェンに送り込まれた天使見習いの一人である。
三人は前もって打ち合わせておいた集合場所に立っていた。ヴァイツェンの首都『ガングニル』の、軍部関係者の官舎や屋敷などが密集する地域の片隅である。背の高い建物とそれらの周囲を覆う森林が多く、故に人目につかない死角も無数に孕んでいる。とても軍部の管轄下とは思えないほどの杜撰ぶりだが、軍人にとってみれば、ここに敵の侵入を許すようでは戦争に勝てるはずがない、と考えてしまうものなのだろう。一般人が思うより甘いところの多いのが現実である。
「それよか……」
本人は真面目に論じているつもりであろう麟の言い訳を無視し、昂は周囲を見回してからこう尋ねる。
「おい、浮はどうしたよ?」
麟と行動を共にしているはずの少年の名を昂は口にした。先ほどの作戦行動は、昂と純、麟と浮の二人一組で、それぞれがこのヴァイツェンに二人いる中将の屋敷へと、潜り込む手筈になっていたのだ。その質問に麟はそっけなく応じる。
「別行動中だ。彼ならじきに戻るだろう。それより、グランツ中将の手下どもを全滅させた話などはどうでもいいのだ。巫桜院の蜜姫嬢に関する話を聞かせろ」
その言葉に昂の両目がつり上がった。この少年、彼をよく知る者には瞬間湯沸かし器に喩えられるほど気が短い。麟より二五センチ以上の高見にある赤い瞳から、日光を受けて燦爛と輝く金髪に向かって、目に見えない針が連射される。
「偉そうな口きいてんじゃねえぞテメエ? いつからテメエがリーダーなったんだ? あ?」
「…………」
これを受けた麟が顔を上げ、無言のまま、蒼穹色の瞳から不可視のレーザーを放つ。と、そこへ純がタイミング良く質問に答える。
「女性は一人もいなかった上、情報もありませんでしたよ? 中将クラスでも知らないということは、さらにその上の人たちの仕業か。あるいは……」
「あるいは……なんだよ?」
「わからんのか、馬鹿め。少しはその肩の上に乗っている立派なものを使ってみれば良いのだ。それとも、それはただの飾りか?」
「んだとコラァ!」
「まあまあ、指を立てるのは下品ですからやめた方がいいですよ昂君。そう、あるいは……ヴァイツェンの軍部とは無関係だったのかも、しれませんね?」
「確かにその可能性はある」
麟は断定口調で純の示唆した可能性を肯定した。
蜜姫嬢はあくまで、姿を消す直前に『白い服の男数人に囲まれているのを見』られただけだ。その『白い服の男数人』をヴァイツェンの者と断定するだけの情報材料は、現時点ではない。ヴァイツェンの犯行を装った、まったく別の組織による仕業である可能性は少なくないのだ。さらに言えば、目撃情報そのものが嘘である可能性すら捨てきれない。
「そもそも誘拐であるならば、その目的が不明なのだからな」
巫桜院蜜姫が姿をくらましてから既に三日が過ぎている。身代金にしろ政治的要望にしろ、目的があるならばまず巫桜院家に連絡を入れるのが筋であろう。希望は伝えなければ叶えられないのだから。しかし現時点において犯人からの連絡はない。そのため、蜜姫が誘拐された理由が判然としないのである。
「じゃーよ、もしかすっと、その女自体が目的だったんじゃねえか? ぶっちゃけ、犯りてえ、とか」
「もう少しオブラートに包んだ方がいいですね。体が目的だった、という風に」
「意味は変わらんだろう。それより下品な発言は慎め。不愉快だ」
吐き捨てる麟のミラーシェードの向こうにある顔は、りんご色に染まっていた。
「つうか耳まで赤いぞテメエ?」
「だ、黙れ」
「初々しくて可愛いですねぇ、麟君は。女の子たちがキャーキャー言うのも無理ありません」
「黙れと言っている! そ、それより浮殿はまだか? そろそろ戻ってくる頃合いだ」
怒鳴ってから、それを誤魔化すように麟はあたりに視線を振りまく。するとそれを待っていたかのように、すぐ傍の建物の陰から、ぬっ、と大きな人影が出てきた。
どこか雪山を連想させる男だった。昂達とはまるでサイズが違うが、スウェーデンボルグの制服を着ているため、体を覆っているのは黒と少しの深紅。そして頭部には、まるでパウダースノーを降りかけたような白髪がある。
昂は先ほど麟に向けて言った台詞とは正反対の言葉を、その男にかけた。
「よう浮。相変わらずデケーなオイ」
浮は無言で三人に歩み寄り、麟のすぐ隣で足を止める。彼と麟とでは身長に五十センチほどの開きがあった。並んで立つと親子にしか見えない。
例えるならば浮の体格は、かつて英雄と呼ばれた戦士にも似ている。服の上からでもわかるほど筋骨隆々たる身体だ。実際に龍日の博物館に飾られている『龍騎』という石像は逞しい肉体の理想像の一つだが、浮の体躯はその石像とほぼ等しい。威風すら漂う素晴らしい身体だったが、その上に付いているものがどうにもいけなかった。ぼさぼさの白髪が顔の上半分を隠している上、露出している部分には無精ひげが目立つ。けっして不衛生なわけではないのだが、見る者の目に、あるはずのないフケを映してしまうほど、それはだらしない印象を与えてしまう。
「遅かったな、浮殿。首尾はどうだ?」
浮は答える代わりに、首を縦に振ることで麟の言葉を肯定した。
「首尾?」
二人のやりとりに純が疑問の声を投げかける。麟は軽く頷き、
「なに、少しな」
と、白衣の懐から小さなリモコンを取り出した。おもむろにスイッチの一つを押す。
いきなり、ずどん、ときた。
遠くで爆発音が生まれ、天に響いた。ややあってから振動が地面を伝わってくる。数拍おいて、南の空に黒い煙が立ち上った。
昂が声を出したのはそれから十秒後である。
「……をい」
「ん?」
「ん? じゃねえっ! 『何故こいつはこんなイヤな顔で私を見ているのだ』って言いたげな目ぇすんなっ! なんだテメエ今のはっ!」
麟はさらりと答えた。
「爆破だ。貴殿らとは違い、私は手っ取り早い方法をとった」
「ああ、なるほど。それで浮君はスイートス中将の屋敷に爆弾を仕掛けていた、というわけですね?」
「その通りだ」
純の言葉に、麟は当たり前な顔で頷く。だが次の瞬間、その鼻先に勢いよく昂の人差し指が突きつけられた。
「む?」
「いいかテメエ。はっきり言ってやるから、よーく聞けよ?」
「うむ」
「──やりすぎだ馬鹿野郎!」
「……なんだと?」
麟の顔が一瞬にして蒼白に染まり、足元がよろりとふらついた。小柄な少年は一歩あとじさり、
「まさか昂殿に……よりにもよって昂殿に『やりすぎ』と言われるとは……!」
「なに本気でショック受けんてんだコラァ! 純に言われるよかマシだと思いやがれ!」
「た、確かにそれはそうだが……それでも貴殿も十分……いや、これ以上言うのはよそう」
麟は何かから逃れるように青ざめた顔を昂から逸らす。それを見咎めた昂がさらに何かを叫ぼうとしたところ、
「なんだかよくわかりませんが、僕には昂君の気持ちも麟君の気持ちもわかりますよ?」
と純が微笑んだ。
「「…………」」
昂と麟は二人して黙り込んだ。呆気にとられたから、というのはもちろんだが、それ以上に言いたいことが脳内で一気に溢れ返ったため、逆に何も言えなくなったのである。
昂に言わせれば「気絶して倒れてる連中に平然とトドメ刺してた奴が他人に『やりすぎ』と主張するつもりかコイツ」となり、麟に言わせれば「昂殿よりも情け容赦のない純殿に気持ちがわかると言われても複雑だ」となる。
渋い顔をして横目で見つめる二人を無視するかのように、純は舌の矛先を浮に向けた。
「それよりも今の爆発で騒ぎになってしまいそうですね。ここにいるとまずいかもしれないので、別の場所に移動しましょうか。ねえ、浮君?」
その言葉通り、四人の周囲の空気が騒然たるものに変わっていく。あらゆる方向から「何事だ!?」「あっちだぞ!」といった声が届き始めた。近くに居を構える軍人達が爆発音を聞き、飛び出してきたのだ。
同意を求めた純の科白に、麟の傍でただ立ちつくしていた浮は、ボソリと簡潔にこう言った。
「どうでもいい」
そして平然と懐から煙草の箱を取り出し、爆弾をとりつけた手で火を点ける。科白からわかるとおり、この浮という少年──見た目だけで言えば青年でも通用するだろうが──は原則的に無口・無気力・無関心だった。例外はたった一人。彼が唯一心を開き、意思の疎通を図るのは、傍に立つ白衣姿の小柄な少年・麟だけである。
「では、必要事項を述べてから移動を開始しよう。確か、こちらの報告がまだだったな」
その浮の唯一無二の親友である麟は、辺りの様子に気を配りながら次のことを淡々と言った。
「私たちは巫桜院蜜姫の居場所の手がかりを掴んだ」
さらりと。
「──はあ!?」
無音の雷撃がすぐ傍に落ちたようだった。それほど重要な一言だったのだ。
脳が言葉を理解するために必要な一拍を置いてから、昂は噴火した。
「──テンメエぇぇっ! そういうことは先に言えっつうのっ! 手がかり掴んでんならこっちのこと聞く前に真っ先に言いやがれ! この馬鹿野郎!」
だがこれに、麟はさらりと返す。
「すまない、謝罪する。もしかすると我々とは違う情報を掴んでいるのかもしれないと思ったのでな。それでは移動しようか」
「それだけか!? それだけかテメエ!? つうか喧嘩売ってんだろ上等だこの野郎──って先に行くな!」
「──誰だ! そこで何をしている!」
平然と昂を無視して麟が歩き出したとき、四人に誰何の声がかかった。煙草を吸っている浮を除いた三人が顔を見合わせる。
「おやおや。どうやら昂君の大声で見つかってしまったみたいですよ?」
「俺が悪いんじゃねえよ。このチビが悪ぃ」
「私をチビ呼ばわりするな! もう一度言ったら容赦せんぞ!」
四人は現在、一方を建物の壁、三方を木々に囲まれている。誰何の声が飛んできたのは、ちょうど壁とは反対方向からだ。立ち並ぶ樹木の向こう側から、複数の気配が近づいてくる。
それを意に介せず、むしろ無視して昂は獰猛な顔と険悪な視線を下方の麟に向ける。
「あんだよやんのか? ん? このチビスケ」
チビスケ。その一言が見えない何かの糸を切ってしまった。麟の顔から表情が消える。
「……言ったな。昂殿、任務の間は戦友とはいえこればかりは許容できない。少々痛い目を見てもらおうか……!」
「何者だと聞いている! 速やかに答えろ、さもなくば──」
さらに誰何が重ねられる。この時、天使見習い四人組の存在に気付いたのは官舎で非番を過ごしていた七人の軍人達だった。爆発音が聞こえたので外に出たところ、小さな森の中からなにやら怒鳴り声らしきものを聞きつけたのだ。もしかすると先程の爆発と何か関係があるのかもしれない──そう考えたのが彼らの不幸だった。
「まあまあ二人とも。喧嘩するのは結構ですけど、とりあえずこの状況を何とかしませんか?」
簡単に言えば、敵に囲まれている。そんな状況だというのに昂と麟を宥める純の顔は平静そのものだ。笑顔が絶えない。それが彼の長所であり、短所であり、特徴だった。
昂と麟は二人同時に舌打ちをする。
「しかたない、決着は後に回すぞ昂殿」
「ああ、それまでにテメエが生きてたらな」
そうして二人の手に現れたのは、翼持つカメレオンが描かれたメタルプレートだ。昂は赤、麟は白銀。それぞれ異なる色を持つプレートは、その持ち主の手中で握り込まれる。
「とりあえず浮君もがんばってくださいね?」
同じく青のプレートを取り出した純は、唯一立ちつくしたまま何の体勢もとらない浮に笑いかける。浮の感想はやはり一言だ。煙と共にぽつりと、
「面倒くさい」
草木をかき分ける音が大きくなっていく。いや、それは錯覚で、ただ単に四人の会話が消えたため、他の音が鋭さを増したように思えるのだ。もはや呼びかけも警告もなかった。気配から、先方が既に武装し警戒していることがわかった。
銃口はもう向けられている。
「おいテメエら」
昂の口元に笑みが浮かぶ。それは麟との舌戦でたまったフラストレーションを晴らす絶好の場を得た、喜びの笑みだ。あるいは、獲物を前にした肉食獣の表情に似ているかもしれない。
そんな顔で、少年は戦闘開始の合図となる一言を告げた。
「ブチ抜くぞ!」
「何度も申し上げますが、正直、正気の沙汰とは思えません」
機関長補佐役の細村悟はそう切り出した。彼は、最初から誰かの補佐をするために生まれてきた男だと言われている。主体性も主導性も無いためトップには立てないが補佐・補助・サポートをさせれば右に出る者はいないという、不思議な男だからだ。彼に補佐された人間は例え無能でも方針さえ持っていれば確かにそちらへ進むという。細村悟、略してもホサ。天使養成機関スウェーデンボルグを支える優秀なスタッフである。
「こちらも何度も言うが、まあ落ち着きたまえ、ホサ村」
一方、細村に正気を疑われた人物は悠然と椅子に腰を下ろしたまま、ごく自然に彼の名前を間違える。何度訂正しても同じ間違いを繰り返すので、細村はもう諦めている。おそらくはわざと間違えているのだ、と気付いたのはごく最近だ。スウェーデンボルグで細村を呼び捨てに出来る人物はただ一人。高価な革張りの椅子に身体を埋めるようにして座り、足を組んだその姿は妖艶でもある。艶やかな黒髪に切れ長の目、オーダーメイドのスーツを隙無く着こなし、顔にかかった眼鏡のレンズはどんな私情をも遮断する。天使養成機関スウェーデンボルグ機関長、片桐聖子。
「君もなかなかにしつこいな。そんなに私の判断が信用できないか?」
彼女は代々機関長のみが腰を下ろすことを許された椅子から、腕を組んで部下の顔を見上げる。胸元に『天裁の剣紋』の刺繍が入った特注スーツに身を包んだ細村の顔は、その性格と能力のためか、どうしようもなく地味で堅実だ。身体も中肉中背で特記するようなことはないが、強いて挙げるならば、声だけはいいものを持っている。
「信用するしないの次元ではありません。あなたのことは心から信頼し尊敬していますが、無理・無茶・無謀は見過ごせません」
はっきりとした滑舌と豊かなイントネーションで流れ出る言葉。万人の耳に心地良い響き。アナウンサーにでもなった方が良かったんじゃねえか、とは昂の弁である。
「無理・無茶・無謀の三拍子ときたか。おもしろいなホサ村。そんな暴言を私に吐ける人間は数少ないぞ? 何故だかわかるか?」
「失礼ですが興味がありません。話を進めます。もう一度聞きますが、何故、あの四人なのですか」
聖子の振った話題をにべもなく叩き落とした細村の言葉は、内容こそ問いかけだったが、その口調はほぼ詰問だった。顔と言わず全身が、真面目に答えてもらえるまではテコでも引き下がらない、という気迫を発している。
聖子はやれやれと肩をすくめ、
「ユーモアを理解しないところが君の悪いところだ。……質問の答えだが、その前に私は一つ問いたい。君は『あの四人を送るべきではなかった』と言いたいのだろうが、では逆に、あの四人以外に誰がいると思うのかな?」
細村の両目が、まっていました、とばかりに輝いた。彼はその質問を待っていたのだ。もちろん答えはもう用意してある。
「わがスウェーデンボルグの生徒は現在総数一〇八名ですが、その中の成績上位の者数名が妥当だったと私は考えています」
「例えば?」
細村の口元に勝ち誇ったような笑みが、小さく浮かぶ。
「景、藍、蓮の三名です。どの生徒も実技・学科共に優秀な成績をおさめていますが、特に景に至っては我が校始まっての天才かと。将来的には間違いなく天龍の一人になるものと思われます」
まるで我が子を自慢するかのような細村の言いようだったが、それを聞く聖子の表情はひどくつまらなさそうだった。
「凡人の発想だな」
おもむろに聖子はそう断定した。その途端、細村の口がピタリと閉じられる。誇らしげな口上が途切れ、沈黙する。聖子の言葉の続きを待っているのだ。
「なるほど、確かにその三名は優秀だ。私とて知らないわけではない。エリートたる天使の、そのまたエリートである天龍に数えられるのも、そう的はずれな予想ではあるまい。だがな」
そこでいったん言葉を切り、何かを溜め込むような沈黙が挟まれた。
そして生まれ出た言葉は、
「それじゃおもしろくないだろう」
聖子の顔は真剣そのものだった。しかしこの程度で呆気にとられるほど細村も短い付き合いではない。彼ははっきりとこう返した。
「それはそうでしょう」
一直線に叩き返された会話のボールを、聖子はしばし保留にする。そして真面目な顔のまま、
「おもしろくなければ意味がない。これは大前提だ」
「そんないい加減なものを大前提などと言わないでください」
きっぱりはっきり、細村の振るう言の刃には容赦がない。聖子は身体をやや椅子の背に預け、軽く軋ませる。開いた口から出たのは全く別の話題だった。
「……君はこの世界が何度も繰り返されている、という説を知っているか?」
流石の細村もこれには意表をつかれた。目を丸くする。
「は? あ、ええ、まぁ。確かそのようなことを示唆する文献があるそうですが……」
「そう。その文献によると、今が何周目なのかわからないが、数百億年、あるいはそれ以上という膨大な時間を一つの周期として、この世界は同じ歴史を繰り返している……とある。グラウンドのトラックを何周も走るようにな。そう考えれば、数千億年前にも私や君は存在したということになる。今の姿形、記憶、両親、祖先、その他諸々、全く同じものを持ってな。そして、同じ事を繰り返している。今こうやって会話していることも、既に数千億年前に行われていることになるな」
「輪廻、と呼ばれるものですね。知っています。しかし、それが一体なんだというのです?」
「わからんか? つまり、歴史は繰り返すというわけだ。全ては最初から決まっていて、これから先の未来も、遙か昔に始まったことなのだ。だからな」
「……だから──なんでしょうか?」
「何をやっても前代未聞にはならんのだから、どうせならおもしろおかしく生きたいと私は思うのだよ。そう。逆に考えれば、私がこれから行うことが過去に起こった輪廻歴史となると考えればおもしろいな。過去も未来も、今の私が決める……うーむ、哲学的ではないかね?」
「つまり何が言いたいのでしょうか?」
「よろしいホサ村。君は優秀だ。常に的確に本質をついた質問をするな」
聖子は伝統の椅子から身体を起こし、立ち上がった。身体ごと窓に顔を向ける。それはちょうど細村から顔を背け、背を向ける形になる。彼女の身長は龍日の女性平均よりやや高いが、それでも男性の平均値である細村よりは低い。それでも細村はその背を巨きいと感じる。物質的に見れば小さな背でも、精神世界から見ればとてつもなく巨大で重いものを背負っているのだ。
スウェーデンボルグ機関長は傲然と腕を組み、背筋を伸ばす。
「現状を整理しながら話そうか。何故あの四人を派遣したのか。それはだな」
「それは?」
「正直に言おう。あの四人でなければ他の機関長達の許可が下りなかった」
「……どういうことでしょう?」
「つまり、だ。ヴァイツェンは安保条約を結んでいる国ゆえに天使の派遣はできない。まあ天使は我が国の機密であるから、派遣したところで一般の人間や軍人にはわからないのだがな。あちらで天使云々に関する情報を握っているのは政府・軍部の最高責任者ぐらいだろう。かと言って、天使を派遣してウィルフレッド=アレッキノ首相やアレックス=バトライザー元帥に知られた場合は外向的に非常にまずい。いや、むしろはっきり言って戦争突入だろうな。だからまあ、天使ではないが、天使とほぼ同等の実力を持つ者を派遣しようという話になった。すまん、水をくれ」
ここで小休止を挟む。細村が水差しからコップに注いだものを受け取り、一気に飲み干す。
「……水をくれと言ったはずだが」
「申し訳ありません。本日は気を利かせたつもりで青汁を……身体には良いので我慢してください。と言いますか飲む前に気付くべきかと」
「えげつない味だな。まあ、そういった複雑かつ微妙な事情から天使見習い──養成機関生徒の派遣が決まったのだが、ここで問題が生じた」
「つまり、どこの天使養成機関からどの生徒を派遣するか、ですね?」
細村の科白に、聖子は空になったコップを机に置きながら頷いた。
「なにせ二三宗家の令嬢救出だ。成功すればその養成機関の株が上がるだけではない。全機関長などという役職が作られ昇進するかもしれん。あるいは、そこ以外の養成機関はつぶされてしまうかもしれん。精鋭を育てるのが天使養成機関の使命だからな。甲乙つけがたかった養成機関の中で角を出す機関があれば、そこを優先するのは当然だ」
「それで、五人の機関長によるせめぎ合いが生じたと言うことですか」
「そういうことだ。そこで、私はこう主張した。我が養成機関における成績最低の者を四人派遣しよう。それによって我がスウェーデンボルグの優秀性を証明したい、と」
「それで、あの三善趣の蓮山機関長やペリグリーズの鷹道機関長は納得されたのですか?」
細村が挙げた名は、五人いる機関長の中でも特に打算的な性格で、腹黒さでは一・二を争う二人だった。あの二人がただそれだけの条件で引き下がるはずがない。
「無論、さらに条件が追加された。本当に我が機関の成績最悪の者かどうか、信憑性の高い資料を出せ、とな。そうこられてはこちらも小細工することはできんだろう。それに……君も心配していることだが、もしあの四人が失敗すれば私の命はない。大言壮語しておいて『出来ませんでした』では話にならん。天帝の怒りを買い、まあ順当にいって死刑だな。そのあたりもあって、彼らは納得してくれたよ。それとまあ、私が女だからなめているのだろう。どうせ失敗すると思っているに違いない」
口の端をつり上げ、にやりと笑う。瞳の奥で燃え上がる炎が、瞬間、眼鏡を超えて外へ溢れ出たように見えた。それはどんな強敵にも立ち向かう挑戦者の目つきだった。その気迫は彼女の全身にまで及び、細村に向けた背中からも熱波のごとき波動が放たれる。
それでも細村は、先程も言ったことをその背中に繰り返した。
「やはり何度も申し上げますが、正直、正気の沙汰とは思えません」
細村があの四人に関して苦言を呈するのには理由がある。成績が底辺を這いずり回っているだけならばまだいいのだ。腐っても、彼らは精鋭を育てる天使養成機関の生徒なのだ。そもそも能力のない人間はここにいることすら許されない。だから、それ以前の問題なのだ。カリキュラムはさぼる、喧嘩はする、騒動は起こす──例を挙げるのも馬鹿馬鹿しい。そんな札付きの不良問題児共なのだ。成績云々の次元ではない。もはや生徒として数えてはいけないとすら、細村は考えている。しかし、
「……確かに、彼ら四人は機関長が自ら特待生として招いた生徒ですから、思い入れがあるのはわかります。ですが、せめて彼らではなく、他にも同程度の成績の者がいるではありませんか。それならばまだ……」
そう言った途端だった。窓に顔を向け続けていた聖子が、突然、細村の方へ視線を向けた。その表情には『?』と疑問符が付いている。
「思い入れ? 何を言ってるんだね君は?」
「はい?」
細村は思わず間抜けな声をこぼした。今、会話の中で何かがズレてしまった。おかしい、どこをどう間違ってしまったのだろうか? そう細村が思ったところへ、聖子が質問を重ねる。
「私があの四人に思い入れがあると、本気で思っているのかね?」
「……違うのですか?」
生真面目に聞き返した。すると、大きな笑い声が生まれた。聖子が笑い出したのだ。それはもう、かんらかんらと表現しても良いほど、軽やかに。
「今のはなかなかのジョークだな、ホサ村。なんだ、一応ユーモアのセンスがあるではないか」
「冗談を言ったつもりはありません」
「わかっている。こっちこそ冗談だ」
にやりと笑うその表情はひどくシニカルで、彼女によく似合っていた。聖子は肩に掛かった黒髪をかき上げ、再び腕を組んで窓の外を見やる。
「私が奴らに執心している、か……残念だがハズレだ。強いて言うなら、私が奴らに抱いている感情は、そう……期待だな」
「期待?」
「そうだ、期待だ。まあ、君にとっては似たようなものか。そういえば奴らを特待生として招いた理由も経緯も目的も、君にはまだ説明していないしな」
細村は大いに頷いた。最初から納得がいかなかったのだ。人事課も通さずに外≠ゥら四人も子供を連れてきた挙げ句、特待生として登録するなど。生真面目な細村から言えば言語道断の職権濫用だった。
「説明をしていただけるのですか?」
切り込むような口調だった。その舌鋒の鋭さは槍に例えても良いだろう。言い逃れなどさせない、そんな気迫が聖子の背に突き刺さる。
「無論だ」
意外にもあっさり返事が来た。細村はやや拍子抜けする。簡潔に言い表せば機関長は『意地悪な人』になると細村は思っている。いつもならばここでさんざん焦らされるのだが……
「ただし、条件がある。それが呑めないのであれば話さん。いいかね?」
聖子の声が低くなった。途端、その全身から威風が起こる。勿論それは細村の主観的な錯覚で、実際に室内の大気はそう動いていない。彼の感じている威圧感は、彼自身の内にある、聖子への畏敬の念から発生しているのだ。
「……どのような条件でしょうか?」
そう聞き返すことで、細村は聖子の問いかけに肯定の意を表した。無様な音を立てそうだったので、唾を飲み込むのを我慢した。この女性についていくからには無様ではいけないと、普段から細村は考えている。なんだかんだあれやこれやと進言することの多い細村だが、それは片桐聖子という人物を尊敬しているからこそだ。この人の力になりたい、この人を助けたい、だからこそ言うべき事は言わなくてはならない──そんな想いが彼の口を衝くのである。
聖子は振り返らず、どこか冷たさを感じさせる態度で、
「私が死ねと言ったら死ね」
とはっきり言った。
「その覚悟があるならば、これから」
「死にます」
続いた聖子の科白を遮断して細村は即答した。意識してそうしたわけでなく、反射的に口が動いたのだ。
刹那、時が凍り付いたような静寂が生まれた。それを埋めるように細村は言葉を重ねる。
「死にます。その覚悟があります。何でもします。ですから、説明してください」
ここで珍しく、聖子が躊躇いがちな声を出した。
「……これまた驚いたものだ。いきなりこんな事を言えば、まず引かれるものと思っていたのだが」
「引いてますよ、思いっきり」
胸を張っていう科白でなかった。聖子の口元に笑みが浮かんだが、細村には見えない。ただ、ふっ、という吐息だけを聞いた。
「君も強者になったものだ。大体、あの四人をなぜ特待生に選んだのかを聞くためだけに命を賭けろと言われて、賭けるのは常識か?」
「非常識でしょうね。しかし、これぐらいでなければあなたの側近はやってられません。どうぞ遠慮無く説明してください。私が死ぬ必要がある時も遠慮無くそう言ってください。私はあなたの指示に従います」
「盲目的に、かね?」
聖子の声が悪戯っぽく響いた。細村は堂々と答える。
「いいえ。これからも言うべき事を言い、示すべき道を示します。気に入らなければ捨ててください」
今度こそ聖子は、くくっ、小さく笑いをこぼし、振り返った。その顔には実に不敵な笑みが浮かんでいる。
「よろしい。私は運が良いようだ。まったく得難い部下を持っている。ありがたいことだ」
「お褒めにあずかり光栄です」
「お前は馬鹿だ、と言ったのだよ」
可笑しくてたまらないといった口調で言う。それに対して細村は頷くことも、一緒に笑うことも出来ない。言葉に詰まる。
「いいだろう、細村。私も君を心から信頼しようではないか。耳をかっぽじってよく聞きたまえ。私がこれから行う……いや、すでに発動している計画を」
鋭い煌めきが天使養成機関スウェーデンボルグ機関長の瞳に閃く。それは知性の輝きだ。だが、天使達を率いる天使長の持つ光ではなかった。どちらかといえば、人間の魂を食む悪魔に例える方が比喩としては正しい。
計画。
その思いもよらぬ響きに、瞬間、細村の胸は高鳴った。自分の知らないところで見えない何かが動いていた。いや、目の前のこの女性が動かしていたのだ。聞くだけのために、死の覚悟まで求められたそれは、きっと小さなものであるはずがなかった。大きく、かつ濃密なものに違いない。
「先に言っておくが、驚いて腰を抜かすなよ?」
そんな冗談じみた前置きをしてから、聖子は『計画』について語り始めた。
細村は話の途中で、本当に腰を抜かすことになる。
三枚のメタルプレートが空中で三次元的な回転を始めた。風車程度のゆるやかな回転数から一息に加速、大気を唸らせる。それによって現れるのは直径をプレートの全長と同じくする、小さな球体だ。高速回転するメタルプレートから突然、四条の光が奔った。プレートの上下左右から迸った四本の光はその回転に合わせて残光で線を描く。光線は伸び、歪み、捻れ、一瞬で空中に立体物を描く。
幾何学的な柄を持つ、直径三十センチ程度のワイヤーフレームの球体だ。龍日ではこれを『星体』と呼び、ヴァイツェンでは『エーテル』と呼ぶ。昂、純、麟の星体はそれぞれのプレートに合わせて色違いだが、デザインや大きさは変わらない。
星体は生まれた次の瞬間には大きく膨れあがり、弾け飛んで消え失せる。だが、代わりに別の物を置いていく。それが昂達の求めている物だった。
武器である。昂は片刃の剣、純は拳銃、麟はファイルブックをそれぞれ手にしていた。回転することで空気中の星体を掻き集め、それによって自己の姿を変形させる。それが彼らの持つメタルプレート、通称『如意宝珠』の特徴だ。特別な加工法により、特定の物を如意宝珠にすることも可能である。麟の場合がそうだった。
戦闘が開始される。先陣を切るのはもちろん昂だ。六神通のうちの一つ、神足通でも持ち合わせているかのような速度で森の中へ突っ込む。迷いも躊躇いもない直線的な動きで、木々の陰に身を隠しながら接近してきた白い軍服の一つに向かう。
「よう」
「!?」
いきなり目の前に現れた少年を、その兵士はどう思ったのか。怪物でも見るような目で昂を凝視し、見当違いの方向に向けている銃口を修正することすら思いつかなかったらしい。
「ワリぃがこっちもプロだ。恨みっこなしだぜ?」
真っ二つだった。目にも止まらぬ速度で昂の右腕が振り下ろされた。まるでコマ落としの映像のようだった。犠牲者以外の目には、仲間の前に少年が現れたと思った次の瞬間、その身体が二つに割れたように見えた。
赤黒い液体を迸らせ、人体が熟れすぎたトマトのように崩れ落ちる。
にわかに信じがたい光景を目の当たりにした残り六人のうち三人が、視覚からの情報を脳で理解する前に、死神に魂を奪われた。純の手にある漆黒の拳銃から放たれた弾丸が、彼らの脊髄を正確に打ち抜いたのだ。如意宝珠から作製された銃は、金属ではなく空気中の星体を凝縮して発射する。火薬を使用しないため音は全く生まれない。その貫通力はヴァイツェンで使用を禁止されている劣化ウラン弾に勝り、また属性の変更も可能で、純が望めばホローポイント弾のように目標の体内に残留させることも出来る。その場合の星体は白熱する金属に等しいので、目標は体内から焼け死ぬことになる。今の純は貫通力を優先し、身体を隠す樹木ごと彼らを撃ち抜いたのだった。
声もなく木の陰に崩れ落ちる兵士を目にしても、純はその死を祝福するかのように微笑んでいた。まるでそれが自分の責務であるかのように。
「ブチ抜くという表現は正しくないな。今回の任務は静かに行うべきだ」
とは、後ほどヴァイツェンのマスコミに『正体不明のテロリスト』と呼ばれることになる爆弾魔である。麟は手にしたファイルブックを開き、その中から銀色に輝く一枚の円盤を取り出した。名を『紋盤』という。表面に如意宝珠とは違う紋様が描かれているのだが、これを同じように回転させると、
「密やかに凍り付くといいだろう」
青白い、雪の結晶に似た柄の星体が生じる。麟が手首を翻すと、星体は見えないレールの上を滑るように宙を走った。文字通り星の輝きを持つ球体は斜め上へと上昇し、吸い込まれるように木の上で機会を窺っていた兵士の胸元へ。
「──!?」
凍結する。
星体と兵士の軍服とが触れ合った途端、爆発的に冷気が発生したのだ。問答無用で半径二メートル程の空間が純白に塗り固められた。圏内にとらわれた兵士の命ごと。
突然の冷気に凍り付いた大気中の塵が、ダイアモンドの欠片のように降り注ぐ。そんな中、残り二人となった兵士達は退却の選択肢を選ばなかった。それどころか、既に昂を除く三人の傍に接近していた。
仲間が物言わぬ彫刻に変えられて、きっちり三秒後。一人が麟の頭部に報復の一撃を叩き込まんと陰から飛び出した。手にしているのは大振りのナイフ。大人の腕力をもってすれば子供の頭など軽く叩き潰せる代物だ。だが、
「どうもこんなナリのせいか私は頭脳派や穏便派に見られるのだが」
背後から振り下ろされるナイフの刃を見もせずに、麟は一歩右に動くことでそれを回避した。
「実はこう見えても武闘派かつ暴力的でな」
他の三人に比べると短いが、身体の比率から見ると麟の足は長い。身長さえあればかなり癖の悪い足になったことであろう。その足が旋風の如き後ろ回し蹴りを放つ。靴底がめり込むのは小柄な麟の眼前、兵士の胸の中央だ。螺旋軌道を描いて入った蹴りの衝撃は兵士の身体を空中に浮かせ、吹っ飛ばした。
兵士の身体の飛んでいく先には浮がいた。煙草をくわえて周囲の喧噪など無いかのようにただ立っている巨躯に、兵士の身体が物理法則に従って激突する──その直前だった。浮は身じろぎ一つしなかったというのに、兵士の身体が目に見えないハンマーに殴られたかのように地面に叩き落とされた。まるでハエ叩きで落とされれる虫のように。
「うざい」
浮がぼそりと呟くと、足下に倒れ臥した兵士の身体が透明人間に蹴り飛ばされたかのように跳ね上がった。
「ごぶっ……!」
兵士は口から大量の血を吐きながら転がり、木の根本にぶつかって止まった。血まみれになった顔から、急速に生気が抜けていく。
触れる必要のない力。筋肉に生体電流を流す必要もない力。また星体にも依らない力。それが浮の武器である。彼のこの能力は龍日では機密に属するが、存在だけは世間一般にも知れ渡っており、『念動力』や『意志の力』などと呼ばれている。これはヴァイツェンと敵対する超人類集団O.B.K≠ノ所属する者達の特徴でもあるからだ。と言っても、浮はO.B.Kのメンバーではない。極秘裏だが龍日でも五本の指に数えられる学者の麟に言わせれば、浮の力はO.B.Kのメンバーのそれとは根本的に質が違う。O.B.Kのメンバーは『カーネル』がいなければその能力を行使できないが、浮はそうではない。彼は彼自身のみでその異能を発揮することができるのだから。
最後の一人となってしまった兵士から、小さな金属音が生まれた。手榴弾だ。自暴自棄になったのか、それとも非情な判断を下したのか。安全ピンをはずし、もはや兵士は仲間ごと四人を始末にかかった。
「──っ!」
風を切って手榴弾を投擲し、安全圏へと走り出す。その顔は恐怖に引きつっていた。六人もいた仲間達が、二十秒足らずで冥界に送られたのだ。当然だった。彼は悪夢の生み出した怪物を消し飛ばすために、本来ならば禁止されている手榴弾を抜いたのだ。
哀れなことに、彼の恐怖は消し飛ばなかった。
「爆弾処理は得意でしたよね、麟君?」
「別に得意というわけではないのだが……この場合は私より浮殿の方が良いだろう。浮殿」
純に聞かれた麟は、宙を飛んできた手榴弾を無造作に片手で掴み取った。手首を翻し、そのまま浮の方へさばく。
浮は何も言わず、ただ口から煙を吐き出した。そしてこちらへ飛んでくる手榴弾を一瞥する。
それだけで終わりだった。
手榴弾が空中で姿を消した。空間に開いていた穴に飛び込んだかのように。
ややあってから、そう離れていない場所で爆発が巻き起こる。
ちょうど兵士が走り去っていった方向だった。爆音が大気を叩き、空気が痺れる。爆風に煽られ、砕けた木の破片や土が飛び散った。
もうもうと立ちこめる煙を前に、麟は口元に笑みを浮かべて嘆息する。
「さすがは浮殿だ。申し分ないタイミングだな」
「全くですね。……と、あれ? そういえば昂君もあっちの方に行ってませんでしたっけ?」
「なんだと? まさか……」
「そのマサカだこのタコっ!」
土煙の中から、泥にまみれた昂の姿が現れた。髪や服が大量の土と木くずにまみれているが、彼自身はまったくの無傷である。昂は服の袖で顔の泥をぬぐいながら、
「ったくよ……少しは人のこと考えて行動しやがれってんだ。殺す気か!」
「あの爆発で無傷な人を殺すのは難しいような気がしますけど。まあ無事で何よりでした」
「全くだ。大体、運が悪かったのだ。昂殿がいる方向に奴が逃げたのだから仕方がないだろう」
「どうでもいい」
「どうでもいいとか言うなテメ浮コノヤロウ! テメエ一番むかつくぞ! だいいち俺ンとこに手榴弾を瞬間移動させたのテメエだろうが!」
怒鳴ろうが喚こうが浮はどこ吹く風だ。彼は山のようなものだった。何を叫んでもこだまが返ってくるだけで、こちらが求める反応は何一つ無いのだ。それを知っている昂は荒々しく息を吐いて抗議を諦める。
結果的に、発憤するつもりが逆に鬱憤を溜めてしまった。忌々しげな表情に張り付いた泥汚れを乱暴に拭い取ると、昂は地面に唾を吐き捨てる。
「んで? どこに行くって?」
発したぶっきらぼうな質問は麟へのものだ。白衣の少年は豊かな金髪を揺らして頷く。
「まずは早急にここを離れよう。少々派手になりすぎた。蜜姫嬢の情報は道すがら話そう……ん?」
そう言った時だった。遠くから警報らしき音が聞こえてきた。唸る獣のように危険や緊急事態を訴える電子音は、少しずつこちらへ近づいてくる。
この状況を純が簡潔に言い表した。
「増援の方々ですかね? さっきの爆発でまた見つかってしまったとか。しかも今度はさっきよりも大勢みたいですけど……どうしましょう?」
「純殿、そういったことは困ったように言うべきだ。どうしてそう嬉しそうな笑顔なのだ?」
「こういう奴だ。ほっとけって」
「ふむ、確かに」
昂の言葉にもっともそうに頷くと、麟は周囲に流れ始めた緊迫感と高まっていく敵意に対し、恐怖の感情をベッドに置き忘れてきたかのような様子で言い放った。
「仕方ない、それでは再びブチ抜く≠ニしようか」
どうやら話の続きはまだまだ先になるようだった。
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