光陰矢のごとし、と言う。
つまり時間の流れは速いぞ、って意味だね。それもそのはず、気が付けばエルザとベルゼと決着をつけたあの日から、早くも一週間が経過していた。
ゼテオは意外──って程でもないか、もう──にも二人を殺さずにおいてくれた。故意に手加減したのか、本気でやったけど結果的に殺せなかったのか。それに関しては恐くて聞いていない。正直、やっぱり後者の方が可能性高い気がするし。
ボクとアレスくんの怪我は、後日やって来た『水晶機関』の癒し系エーテルストライカーの人に治療してもらった。ん? 癒し系って何か違うかな? まぁいいや。
エルザリオンとベルゼリオンも結構な重傷だったけど、こっちは治療して動けるようになったら厄介だから、という理由でそのまま連れ戻されていった。可哀想だけど、仕方ない措置だと思う。
二人はかつてのボクのように、『水晶機関』でしばらく軟禁状態になるらしい。怪我の治療もあるだろうし、命令違反とか色々、問題が山積みらしい。ただ、『処分』される恐れはないだろう、ってハワードさんが言ってた。そこだけはちょっと安心。とはいえ、結局分かり合えなかったわけだから、もう二度と会いたくないとは思うけれど。
ちなみに双子の古代言霊の直撃を受けて吹っ飛んだアレスくんは、冗談抜きで瀕死の重傷だった。全身の骨という骨が砕けて──と言っても肝心なところが砕けてたら今頃生きてないだろうけど──半死人の状態だったみたい。
けどしかし、日頃の鍛錬のおかげか、それとも〈エクステンド〉の肉体のおかげか、なんとか癒し系エーテルストライカーの到着まで持ちこたえ、奇跡的に生き延びることが出来た。その後は見る見るうちに回復していって、ボクが退院した翌日に、彼も病室を出ることが出来た。いや、っていうか化け物?
ボクとゼテオと『水晶機関』との関係は、あれから結構複雑になっている。あちらでもゼテオが〈エクステンド〉であることが確認されたらしくて、ボクを含めて保護回収しようとする動きがあるみたい。
でもボクにせよゼテオにせよ、自由を好む気質だから、そんなのは絶対お断りだ。
それにボク達はなんだかんだで『水晶機関』最強の切り札である『二人っきりの処刑者』を返り討ちにしたのだ。『水晶機関』としてはボク達に対して切るカードがもうなかった。あるとしたらアレスくんだけど、彼には強硬手段に出るつもりはないみたいなので大丈夫だと思う。
そんなわけで、あれから一週間。
これは絶対に秘密なんだけど、あろう事か再びゼテオのエーテルが透明に戻ってしまっていた!
「……ねぇ。何? 照れくさいの? 今更?」
「うるせぇ」
「心開いて自由になったんじゃん? それが何で?」
「ほっとけ」
「ほらまたそーやって他人を拒絶するーっ! それがいけないんだって何回言えばわかるんだよオバカァッ!」
「やかましい! 黙れ! 何をどうしようと俺の勝手だろうが!」
「うわあんゼテオが開きなおったぁ! 最っ低ぇ────────ッ!」
「ぎゃあぎゃあ喚くな!」
こんな感じである。一週間。たった一週間だよ。一週間経ったらゼテオの開いた心はまた閉じてしまったらしい。しかもエーテルが透明になるほど。有り得ない。心底有り得ないよ。一体何を考えているんだろうね、このゼテオ・ジンデルって人は?
「ふん、まぁいいけどさ。ボクだってゼテオのことなんかどうでもいいし。どうせ照れ屋さんなだけだってわかってるしー」
ボクは部屋のベッドに身体を放り投げて、ゴロゴロ転がりながら拗ねた口調で言ってやる。ゼテオはいつかのようにミネラルウォーターのボトルを片手に、
「あーそうだな、俺は照れ屋さんだ。シャイなんだ。繊細なんだ。だからこれ以上言うな。黙ってろ」
「はいはい」
と生返事をしてから、ボクは急に空腹感を感じた。時間はもう夕刻。そろそろ晩御飯の頃合いだ。
「ゼテオー、おなかへったー」
「ああ? ……そうか、もうこんな時間か」
時計を見て、ゼテオも立ち上がる。
「ねぇ、今日は久しぶりにお仕事成功したしさ、なんか美味しい物食べようよ!」
「……そうだな。今日は外食にするか?」
一瞬の間は、きっと今日の収入と食事代とを計算していたからだろう。
「じゃあ今日はボク頑張ったから! ボクのリクエストで!」
「……好きにしろ」
苦虫を百匹一度に噛みつぶしたような顔をゼテオはしたけど、選択権は譲ってくれた。実はなんだかんだで丸くはなっているんだよな、この人。ちょっとだけ優しいし。一体どうしてエーテルがまた透明になっちゃったんだろう?
「じゃ、今日【は】頑張ったマテリアは一体何が喰いたいんだ?」
ほら、ちゃんと名前で呼んでくれるし。それだけに今の状態は不思議すぎる。
それはともかく、ボクは何を食べたいかを考える。
今日は肌寒い日だった。うん、こんな日は鍋がいいかもしれない。じゃあ何鍋かというと、ボクは鳥があんまり好きじゃなかったりする。となると、選択肢はほとんど無いわけで。
ボクは元気いっぱいにこう言った。
「じゃあ──しゃぶしゃぶがいい!」
そう言った瞬間、何故だかわからないけどゼテオはもの凄く嫌そうな顔をした。
……何でだろう? しゃぶしゃぶ嫌いだったのかな?
──完
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