人生
─旅─









 今度こそ警察を呼んだ。

 ただし、七海と研究所を出て、桧山家で全ての準備を済まし、何処ともしれぬ駅の公衆電話を使って、である。

 電話口で叫ぶ声を無視して、真士は電話を切った。言わなければいけないことは、全て伝えたつもりだ。これで貴子の死体も、そして男爵の死体も、警察が発見してくれるだろう。

 男爵の死の顛末については、七海から聞いた。何故か、死んだと聞いたはずの月夜の名前が出てきた時、真士は納得してしまった。ああ、彼女ならやりそうだ──と。後になって気付いた武彦の行方も、おそらく彼女が一枚噛んでいるのでは──そう真士は考えている。

 真士と七海は今、聞き慣れない名前の駅の、見慣れないホームにいる。手荷物は、ボストンバック二つ分。端から見れば、旅行中の兄妹に見えなくもない。

 旅に出ましょう、と言ったのは真士だ。彼は初めて研究所を脱走した時から考えていたのだ。どこにも居場所がない自分は遠くへ旅に出よう──と。

 うん、と頷いたのは七海だ。父も母も、そして義母も失くした彼女には、もう真士しか大切な人が残っていなかった。真士のいない場所に、彼女の居場所はない。だから七海は真士についていこうと思ったのだ。

 夕刻。残照がホームを朱色に照らしている。真士は公衆電話から視線を外し、少し離れたベンチに座っている七海を見た。彼女の身を包んでいる濃紺のデニムシャツとハーフパンツ、白いウィンドブレーカーは、真士が着ていたものではない。あれは【真士の血】でもう着れなくなったため、捨てた。七海が今着ているのは、先程新しく買い求めたものだ。ちなみに金は桧山家にあるもの全てを持ってきた。しばらくは働かなくてもいいほどの額がある。

 ベンチの七海は、足元に置いたボストンバックのバンドを手に持ち、眠たそうにぼんやりと視線を中空に泳がせている。白のセーター、ブルージーンズ、黒のブルゾンという出で立ちの真士が近付くと、彼女はポツリと呟いた。

「……どこ、いこっか」

「どこ、行きたいですか?」

 真士が聞き返すと、七海はきっちり一秒の間を置いて、言った。

「……どこでもいいよ」

「僕も、どこでもいいです」

 どこか遠くへ、と真士は思う。七海と──『仲間』と一緒ならどこでもいい。どこか知らない土地へ行って、七海と暮らそう。そして、『岩崎真士』を知らない人たちと出会い、自分を自分として見てもらおう。

 自分たちの居場所を、自分たちで創ろう。

 七海の目が、真士を見た。そして、彼女は薄く微笑み、こう言った。

「じゃ、どっか遠くに行かない?」



 二人の人生は、まだ始まったばかりだ。

To Be Continued………?





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