四月十日は長い一日だった?





さて、これから書くのは二千年の四月十日の話である。
……いや、正確には四月九日から、四月十日にかけて、である。
なお、口調は少し固め風味なので、気にしないように。
これで何が言いたいかというと、簡潔に「締め切り直前まで粘ると地獄を見るぞ」と言うことである。
今から語ることがその地獄の一面であることを、前もって了承していただきたい。


さあ、ちょっと偉そうな前口上を終わらせたところで言ってみようか。

四月九日、午前四時頃。
ようやく電撃ゲーム小説大賞に投稿する原稿が完成した。
気分はハイテンション。
なにせ原稿用紙三百六十枚分である。
完成したその感動は一塩。
これが下手をすれば僕の運命を変えてしまうのである(あくまで下手をすれば、であるが)
そんなこんなでナチュラルハイな僕は、いきなり数人の方々にメールで送りつけるという暴挙に出た。
そう、『暴挙』である。
何故なら、その原稿はまだ『未完成』だったのだ。
後で見直すと妙にしっくり来ず、後で加筆することとなるのだが──その時の僕がそんなことを知る由もなく。
ああ、あの時の数人の方々には迷惑をかけてしまいました。もうしわけない。

とりあえず、四月九日の前半は、原稿の仮完成で幕を閉じる。
僕は朝日に目を細めつつ、ベッドに入った。

目が覚めると午後二時半だった。
驚くこと無かれ。
これが、春休みの僕の生活スタイルである。
夜中の二時から五時まで執筆し、朝日を浴びて惰眠。そして太陽が下降を始めた頃に目を覚ます。
我ながら怠惰な生活である。
さて、ここからが長い一日の始まりだった。
まずはパソコンを立ち上げ、HPの軽い巡回とメールチェック。
特に問題なし。メールも届いていない。
次に、数時間前に完成した原稿に目を通した。















……ん?





何か、物足りない気がする。
数時間前は満足げに書いた物が、何故か気に入らない。
そう、終わり方が妙に不自然なのだ。
こりゃイカン、と思った僕は慌てて思考回路を執筆モードに移行。
背筋をピンと伸ばし、さらにラストを追加しようと試みる。
そしてあることを思い出し血を吐いた。













既に規定枚数超えてるのにさらに加筆するのか!?









電撃の規定枚数は三百五十枚。
だめだこりゃ、と思わず言ってしまいそうになるが我慢した。
とりあえず、終わりよければ全てよしとも言う。
終わりが悪ければ話にならない。

よし、とりあえず加筆。

そんなわけで加筆終了。
これで本当に完結したのである。
再度、完結の感動に身を震わせる僕。
しかし、まだやるべき事は残っている。




そう、校正である。

実はいくらか書く毎に、とある人物に校正を頼んでいたのだが、それでも出るのが誤字と脱字だ。
まずは父の部屋にいき、先週のウチに買い溜めておいたインクジェット紙に原稿を印刷する。
その枚数、実に80枚強。
いやはや、よく書いたものである。
なんとなく、自分で自分を誉めたくなる。
印刷の間にも目を光らせ、一枚一枚丹念に目を通し、ペンでチェックを入れていく。
特に誤字脱字はなく、むしろ「これ、ルビふらなきゃなぁ」という物の方が多かった。

ここで休憩。
ビデオやら買い物やらで結局時間が潰れてしまうのだった。
そうそう、ここで今度こそ完成原稿を数人の人に送りつけていたりする。

夜、である。
未だ校正は途中だったので、十一時を過ぎてもネットに入らず校正を続ける。
十二時頃、ようやく校正が終わった。
ちょろっとネットに入り、再び某人物に完成原稿を渡し、あちらさんにもチェックを依頼する。
とにかくチェックである。
そして、それと平行しつつ、「どこを削ろうかなぁ」と考える。
三百五十枚が規定なのであって、三百六十枚では話にならない。
よって、話のどこかを削らなければいけない。
まあ、無理に削らなくとも、改行などを減らしていけばいいのだが、どこの改行をなくしたものやら判断が付かない。
なんとなく、改行している部分から改行を消すと、テンポが悪くなるような気がするのだ。
よって、僕はとあるシーンに目を付け、そこを丸ごと消してしまうことにした。
ちょうどよく話の展開上、消えても困らないシーンであったのが幸いだった。
多少の書き換えは必要だったが、まあ許容範囲内である。

そうやってチェックが済んだのは一時を過ぎた頃だっただろうか。
チェックが済んでしまえばこちらの物。
とりあえず原稿に目を通しつつ、誤字脱字を修正。
これは十分程度で終わる。
次に、原稿ファイルを別名で保存し、削り作業に入る。
まず、前々から目を付けていたシーンを、それこそごっそりと消してしまう。
うーん……すっきり。
泣きたくなるぐらいだ。
そして次に、そのシーンを消した事による路線修正。
とりあえずそのシーンでは主人公が返り血を浴びていたりしていて、後でその描写を書いたのだが、それらを全て書き直すのである。(僕の小説であるからにして、当然の如く血だらけなのだ)
削った後、ざっと全体の流れを見て変なところがないかを見る。

さあ、そしてとうとうルビ振りである。
チェックの際に難しい漢字には線を引き、傍点を付けねばいけないところは【】でくくってある。
一太郎で読み込み、検索しつつルビを打てば完璧である。
最近のソフトは同じ単語に同じルビを一気に打ってくれたりするから楽だ。


















なーんて言ってたらダメである。




何故か?
想像してみよう。
とある小説を買うと、主人公の名前全てにふりがなが振ってあるのだ。
しつこい、と思ってしまわないだろうか?
僕は思う。
よって、ある程度の間隔を置いてルビを振るように、根気よくルビを振っていく。
これがまた大変なのだ。
なにせ肩が凝る。
肩が凝ると、肩が痛い。
肩が痛いと、肩を動かしたくなくなる。
肩を動かさないとなると、何もできない。
何もしない分けにはいかないので、ルビを打つ。







悪循環である。






そして、なんとまぁ、このルビ打ちにたいそう時間がかかってしまった。
気が付けば、既に時計は午前五時を指している。
いや、なにもルビ打ちだけでこんなに時間がかかったわけではない。
僕は元々飽きやすい人間なので、ちょっとやっては本を読んだり、ちょっとやってはコーヒーを入れて休憩したり。
何だかんだでルビ打ちの間に一冊の本を読み終え、コーヒーを五杯飲んでいたりする。


















ダメじゃん。












とにもかくにも、日付では既に四月十日である。
締め切りである。
僕は急いだ。
これが終われば次は印刷なのだ。
はやくせねばとちゃっちゃとルビ打ちを終わらせた。
ファイルを保存し、一太郎を閉じる。
そして保存したファイルをフロッピーに……あら?
ファイルが……ファイルが、無い?
おかしいな、ルビを打ったんだから一太郎ファイルがデスクトップにあるはずなのに。
徹夜のせいで頭がぼけているのだろうか?
僕は目を皿のようにしてデスクトップを見回した。
が、ない。
ルビを打ったファイルがないのである。
こうなりゃ検索だ、とファイルを検索する。


















出てこない。









あれれ?
と僕は呟き、その口調とは裏腹に背筋も凍るような恐怖を感じていた。
よく考える。
そう、まず、一太郎で原稿を読み込んだ。
そして別名で保存した。
ここまではいい。
次に、別名で保存したファイルを開き、削りとルビ打ち。
そしてファイルを保存した。

……何がいけなかったのだ?

さらに深く考える。
ファイルの形式はどうだった?
元原稿の形式はテキスト形式だった。
別名もテキスト形式だったと思う。
そしてそれを読み込み、削りとルビを、


















ひいいいいいいいいぃぃぃぃっ!!??

ようやく気が付いた!
わざわざ削ってルビを入れた物を『テキスト形式』で保存してしまったのだ!!
一太郎ファイルで保存しなければいけなかったというのに!!!



















……うそ?







その瞬間、心臓が止まったかと思った。
ジョーのように真っ白に燃え尽きる。
数時間、数時間の苦労が、一太郎を終了させたあの一瞬で水の泡になったというのだ。
なんとまあひどい話ですわよ奥さん。
やはり神様は僕が嫌いらしい。
「そうだ、神様が今年は送るなっていっているんだ。どうせ落ちるんだから無駄な努力は止めろって、そう言っているんだ」
冗談でも誇張でもなく、その時はマジでこう思った。
さすがは徹夜した頭である。
今考えると珍しいことを考えたものだ。

確か、十分ほど放心していたかと思う。

しかし、僕は不屈の精神を持ち主である。
休憩(放心)を終わらせると、泣く泣く再度削りとルビ打ちに入った。
今度はしっかりファイルの形式に注意しつつ。
と、ここで一つ気付いた。
前述の通り、傍点を振るところは【】でくくっていた。
そして先程、傍点を振り、【】は消してしまったのだ。
すると、先程の作業で傍点を振る場所の目印が無くなったという事になる。

…………

いや、落ちつけ。
心を荒げても何もいいことはない。
元原稿を別窓で開き、それで【】を検索して、削った原稿に傍点を振ればいいではないか。
少し手間だが、出来ないことではない。
そうだ、落ちつけ。
そして作業を進めるのだ。
…………

























ぬがあああああああ!!!






やはりむかつく!!
神様のばかやろおおおおおおおおおっっ!!


















ふー……ふー……
本気で「やめてやろうかこんな事」とか思ったりする。
「本気」である。
眠りの足りない脳味噌は本当に阿呆な事を考えてしまう。

とにもかくにも、ルビを打たなければ話は始まらない。
今度はさぼろうとせず、大真面目にルビと傍点を振っていく。
この時点で肩こりは既に致死量を超えているって感じだ。
脈絡もなく、限界を超えた肩が破裂したらどうしようなんて馬鹿なことを考えて、真剣に怖がったりする。
アホだ。

何気なくメールチェックをしてみる。
すると、さゆさんからメールが来ていた。
送りつけた原稿の、感想のメールである。
が、それには、感想よりも素晴らしいことが書いてあった。
誤字脱字の報告である!!
すばらしい! ハラショー!!
今の僕にとってこれほど嬉しい援護はなかった。(ありがとうございます)
いそいそと指摘された場所を修正する。

ようやく全ての作業が終わった頃には、十時を回っていただろうか。
両肩にはコナキジジイを通り越してキタキタオヤジがのっかかって踊っているのではないかという程の痛み。
背筋は少しでも捻れば「ごきん」という音ともに骨が外れてしまうのではないかと思うほど、バキバキだ。
そして頭は白い靄でもかかったかのように朦朧としていた(やべえ)
今度こそファイルを一太郎形式で保存し、フロッピーにうつす。
父の部屋へいき、プリンターを起動。
読み易さを考慮したスタイルを設定し、ようやくプリンターの本領発揮だ。
じーっ、じーっ、じーっ、じーっ、ぷすんっ。






















……ぷすん?





















音と共にプリンターが停止し、僕の頭の中でヴォルト・ボンベが爆発した。(ネタが解らない人は巴里を読んでくださいまし)
時間が凍り付いた。
僕はプリンターを凝視し、硬直していた。
そして、一体いかほどの時間がたったのだろうか。
不意に、プリンターが活動を再開した。
じーっ、じーっ、じーっ……
どうやら、ちゃんと原稿は印刷されているようである。
僕は胸を撫で下ろした。
いやはや、寿命が縮んだかと思った。
僕は一階に降りて、コーヒーとクッキーをもって再び二階へ。
椅子に腰掛け印刷された紙を整理しつつ、考える。
あの「ぷすんっ」は何だったのだろうか?
幾つかの仮説を立ててみたが、確認する方法がなかったので考えるのを止めた。
もはや、僕の思考回路は三割も起動していなかったのだろう。
ちなみに今でも原因は不明である。

ちなみに、印刷中にもトラブルがあった。
「あ、ここ誤字!」
「ぬををっ!! ここのルビ忘れてるぞ自分っ!!」
部屋には一人しかいないというのに大騒ぎである。
というか、騒いでいた僕がおかしいのか。
徹夜は人を狂わせると実感する。

さて、印刷は終わった。
僕の心臓は空っぽになる。
頭もまるで酔っぱらったかの如く浮ついている。
歩いていても、まるで雲の上を歩いているような感覚だ。(本気でやばい)
そしてちょうどその頃、ルビを打っている間に学校へ送り出した弟が帰ってきた。
これはちょうどいい。
僕は彼に原稿の右肩に穴を開ける作業をまかせた。
なにせ中学三年生。
これぐらい出来てもらわないと困る。
さて、ぎゃあぎゃあ言わない優しい弟を持った僕はネットに入り、メディアワークスのHPへ。
念のため、応募要項に目を通す。


















遅いって。


















そんなわけで応募要項。
送るのに必要な物にざっと目を通す。
原稿は勿論。
タイトル、住所、本名、筆名、年齢、職業、電話番号などを書いた紙。
そして、八百字以内のあらすじである。

…………?




















……あらすじーっ!?




















朦朧としている頭では時間がかかったが、事を理解した僕は絶叫を上げた。
あらすじを書かなくてはいけないことを、すっかり忘れていたのである。
滅茶苦茶に慌てた。
僕は慌てて一太郎を起動し(父のパソコンで)ぶっつけであらすじを書いて印刷した。
これが後の後悔の元である。
徹夜で朦朧としている頭で書くあらすじがおもしろいはずもなく。
今になってみるとどれだけ稚拙な物か。
「今書け!」と言われたらおもしろいあらすじを書く自信があるというのに……
目の前にあるのは、追いつめられて朦朧とした頭で書いた不細工なあらすじである。
ああ、こんな事になるならさっさと書いておけば良かった……
書いてしまったあらすじでは、全く話が見えないのだから……

さて、十二時である。
お日様が頂に登っている、そんな時間。
計算すると、連続二十時間起動だろうか。
うへえ。
「死ねば楽になるかな」とマジで考えたりもする。
弟が穴を開けて紐を通した原稿と、諸々のプロフィールを書いた紙と、あらすじを封筒に詰め込み、念入りに封をする。
宛先は既に書いてある。ここらへんは抜かり無い。
封筒を持ち上げると、結構重かったりする。
その重さを手に持ち、僕は家を出た。

「これ、今日の消印つきますよね?」
「はい。速達にしますか?」
いいえ。今日の消印で着けばそれでいいんです

今度こそ燃え尽きた。
郵便局を出て、立ち尽くしてみる。
ああ、風が涼しい……
生きているって素晴らしいなぁ……
そう思いつつフラフラと自転車で家へ帰る。
途中の自販機でビールを買って。

家に帰ったら飲めや喰えやである。(僕は歌えないのだ)
前もって買っておいたワインとビールとつまみを開き、一人でささやかな宴会。
弟を巻き込んで酒を飲ましたりする。(まてい)
ピザや焼き肉をぺろりと平らげ、ワインボトルを一本、ビール缶を二本、空にした。
そんな僕は誰もが認める酔っぱらいである。
徹夜で朦朧、プラス、酒でフラフラ。
ダブルパンチ。
もはや理性を失った僕は四つん這いでベッドへ向かった。
ぼふっ、とベッドに倒れ込み、四肢を弛緩させる。
そして布団に潜り込み、



















「くふふふっ……」







と笑ったのである。
先程も言ったが、僕に「理性はなかった」
まるで幼児だったのだ。
そんな奴がハイテンション、プラス酒である。
そんなコトすればどうなるか。
笑うのである。
しかも不気味に。
「くふっ、くふふふっ……」
ああ、今思い出しても背筋に悪寒が走る……
我ながら、端から見ると怖い光景だなぁ。



「うひっ、うひひひひっ」



こうして、不気味に笑いつつも僕は眠りに落ちた。
そして目が覚めれば四月十一日だった。

冷静に考えると、四月十日を眠ったまま過ごしたような気がする。
どうにも、九日に寝たら十一日だったというのが僕の感想だ。
いやはや、無茶はするもんじゃないなぁ。
なんとなく「生きながら地獄を見た」という感じである。
いや、本当の地獄はもっと凄いとは思うが。
とにかく、長時間眠らないでいるというのはかなりの精神力を要することが解った。
そして、体の調子を崩すことも解った。
こういうのは出来るだけしないようにしなければ。
とりあえず、来年こそは締め切り前に執筆を終えたい物である。

と、去年も同じ事を言っていたような気がするが、まあ気にしないでおこう




まけ

さてさて、そんなこんなで今年の電撃大賞への投稿は終わった。
まあ、万が一にしか賞を獲る可能性はない。
よって、来年も挑戦あるのみである。

とりあえず10月まではHPの小説に力を注ごうかと思う。
剣霊戦記の更新が遅れに遅れているのだ。
なにせ初の連載形式。
いつ終わるのかが解らないのがネックだ。
いや、普通の小説ならプロットを立てられるのだが、この小説に限りはそうでない。
他の方々の意思も関係してくるのだ。
プロットを立てるに立てられない。
まあ、持ち前の根性で凌いでいこうかと思う。
行き当たりばったりは結構得意なのだから。

ここで一応予告すると、今度また投稿するのは「刹那の雪」の改訂版(といってもがらりと変わるが)
タイトルは『瞬きの冬』である。



さあ、がんばってみようか自分。






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